平川紀道

human property (alien territory) pt.2 - works in progress

Past
1月8日(土)-2月5日(土)
12:00-18:00 日・月・祝 定休

"human property (alien territory) pt.2 – works in progress"

 

Yutaka Kikutake Galleryでは、1月8日(土)から2月5日(土)まで、平川紀道の個展「human property (alien territory) pt.2 – works in progress」を開催します。

 

平川が近年集中的に取り組んできた高次元空間における美をテーマとした映像と音響によるプロジェクト「datum」は、空間、色、時間という異なる概念を、それらが統一された高次元空間において対称的に扱うことで、人間が本来は目にすることのない美を見ようとする作品でした。それは、不定形性というデータの特徴を利用した「即データ的」とも言える手法を用いて展開されました。平川はそうした試みを「無限に実行可能なアルゴリズムという数理的な思考や、宇宙という対象に迫ろうとする数学、物理学といった学問への興味は、自分の命あるうちに到達できない極端に長い時間や極端に遠い場所への興味が起点であり、それはいわば垂直的な指向であり、東京を拠点にしていたということとも関係がありそうだ」と振り返ります。様々な事物が生まれ、熟し、新たなものへと入れ替わるサイクルの速い都市おいて、時間や空間が限定的にならざるを得ないからこそ、人類は新たなツールやそれに伴う思考を常に相互にアップデートしてきたともいえるでしょう。

 

一方、今回発表される新作(プロトタイプ)たちは、近年平川が拠点にする北海道・札幌で、その日本国内においては比類のない広大な水平に延びる土地を背景に制作された作品たちです。そこでの関心は、自身が到達できない異次元のものではなく、到達可能な対象へと移行しているようにもみえます。

2019年に参加したMutek Tokyo Edition4で披露された、散歩の過程で撮影されたという雪景色の写真を音響に変換するプログラムによって映像音響作品として作られたライブパフォーマンスは、次々に展開する雪景色を捉えた写真の美しさと、地鳴りのように振動する高音圧かつ高解像度のノイズのコントラストにより圧倒的な体験を鑑賞者に与えました。その作品はちょっとした思いつきで発表したと作家は言いますが、本展で発表される作品たちはその延長線上であり、自分が感じている光や手に取った物体をどのように作品を通じてリプリゼントすることができるのか、という試みであると言えるでしょう。

数理的な変換の普遍性だけでなく、自分(人間)が見ているもの、聞いているものから引き出される“意味”や“価値”は絶えず一面的なものであらざるを得ないということを念頭に、自然現象や物体を観察することを基礎に置いた新たな試みが展開されているのです。

 

モニターデモ機 提供協力:EIZO株式会社

スピーカーデモ機 提供協力:フォステクス カンパニー

 

展示作品について

 

“sunlight spectrum sonification”

とある海岸で撮影された連続写真と日光のスペクトルの観測データを組み合わせた映像音響作品。

RGB(赤緑青)という人間の視覚が依拠する錐体細胞の特性に準じたものではなく、振動数と振幅という光本来の持つ量を記録し、音に変換した。それを彩度をゼロに落とした映像と組み合わせてみる。眼で見ることとも肌で感じることとも違う方法で光を感受してみる。

 

“(non) semantic process”

アイヌの居住地であった白老の海岸で見つけた流木を文字列に変換して、先頭から順に辞書と照らし合わせ、単語を探して文章を生成しようとし続けるプログラムによる作品。たまたまそこに漂着した流木に解釈可能な文字列が含まれるとしたら、そこからどのような価値を見出すことができるだろうか。それは「美」ではないかもしれないが、”美術“が扱うべき対象ではないのだろうか?

「XXXに見える奇岩」のような存在を、人間の眼やそこから学習したAIといった人間中心的な視点ではない方法で見出すことはできないだろうか?

 

アーティストについて

 

平川紀道は、1982年生まれ。2005年多摩美術大学情報デザイン学科情報芸術コース卒業。2007年、同大学大学院デザイン領域情報デザイン修了。2004年よりコンピューター・プログラミングを用いた映像・音響インスタレーションを中心とした作品群を国内外で発表する。また、池田亮司、大友良英、三上晴子らの作品制作への参加、「Typingmonkeys」としてのライブ・パフォーマンスなど、様々なフィールドで活動を展開する。その表現活動は、鑑賞者が「認知」として知りうる人間の身体感覚とは異なる、コンピューターで扱うような論理的な時空間を、「実感」しうる像として実世界にとどめようとする挑戦であるだけでなく、美や崇高といった人間固有の概念を、人間が享受できる範疇を超えて追求する試みでもあり、その作品は「時間」とは、「宇宙」とは、「世界」とは、そして「私」とは何かを問い続ける装置でもある。

 

近年の主な展覧会に「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館,東京、「datum」(2017年、モエレ沼公園 雪倉庫、札幌および、Yutaka Kikutake Gallery、東京)、「knowns unknowns and the (ir)reversible」WRO Art Center,ヴロツワフ,ポーランド、「datum」(2016年、豊田市美術館 大池、愛知)、「given」(2015年、Yutaka Kikutake Gallery、東京)がある。主な受賞歴に、「アルス・エレクトロニカ2008」インタラクティブ部門準グランプリ、2004年、2019年「文化庁メディア芸術祭」アート部門優秀賞受賞など。