沖縄生まれのミヤギフトシは、セクシャルマイノリティとしての自身のアイデンティティと向き合い、歴史のなかで見過ごされてきたささやかな感情や想いについて、写真、映像、オブジェ、テキスト、印刷物、インスタレーションなど多様な手法を用いて作品を制作している。史実を軸に文学的感性によって自身の記憶や空想とも並走させながらすくいあげられる感情は、ときに揺らぎや葛藤、痛みを伴うが、これはミヤギが理想化された記憶の再生を求めているわけではなく、自身の真理の追求をしていることをあきらかにしている。そして私たちはこの真理を追求する感情や想いが、実はセクシャルマイノリティとしてのミヤギ個人に限られたものではなく、人種や国籍、世代や文化、ジェンダーやセクシャリティを問わず、誰もが持ちあわせている普遍的な感情や想いであることに改めて気づかされるのである。
「沖縄で沖縄人男性とアメリカ人男性が恋に落ちることは可能か」というテーマでブログや郵便物といったパーソナルな発信から、映像作品やインスタレーションへと展開させた《American Boyfriend》プロジェクトは、作品や思考に通じるトークイベントやグループ展のキュレーションなども継続的に行ない、ミヤギのライフワークのひとつとなっている。また、こうした作家活動と並行して、Printed Matter(ニューヨーク)やUtrecht(東京)といったインディペンデントなアートブックショップにスタッフとして携わっているほか、アーティストコレクティブであるXYZ collectiveのco-directorもつとめており、そこでの活動やインスピレーションはミヤギの作家としてのアイデンティティの一翼を担っている。
主なパブリックコレクションとして、金沢21世紀美術館(石川)、愛知県美術館(愛知)、国立国際美術館(大阪)、森美術館(東京)などが挙げられる。