白籏花呼

私 呼吸し さめざめないてみる

Upcoming
京橋
2026年5月30日(土) - 7月25日(土)
11:00 - 19:00 日・月・祝日休廊

Opening reception
5月30日(土) 17:00〜19:00

※6月16日(火)〜20日(土)はアートフェア出展につき、アポイントメント制となります。
ご来廊をご希望の際は、お手数ですが前日までに下記までお問い合わせください。
MAIL:info@yutakakikutakegallery.com
TEL : 03 6447 0500

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古典美術や現代視覚文化における女性の表象に自己の容貌を重ね合わせ、絵画空間上でのイメージの再構築を試みる白簱花呼(2002年大阪府生まれ)。AI技術によって加工され、他者の欲望の対象としてネット空間で消費され続けるアイドル像を目にしたことを契機に、女性の表象を「見られる」存在から「見せる」主体へと転換する白簱の探究がはじまりました。既存のイメージの内部に自身が潜り込み、あるいは自己に既存の女性像を重ねて描くという彼女の実践は、「彼女達」が浴び続ける欲望の眼差しを自身に一部引き受けるという態度から始まった方法論です。白簱はこのようなイメージの再構築を意図したアプローチを、古代の呪術的身振り「アナ・スロマイ」[1]的意味合いを持つ、女性像の拡張の試みと位置付けています。

 

美術における女性の表象は、単なる「共同体の社会的現実や心性の反映」ではなく、「様々な意図や目的、そして戦略を持った作者群によって創造されたものである」と、若桑みどりは指摘します。[1]このようなイメージの恣意性をめぐる感性と、自身もまた女性であることによって感受する世界との応答は、白簱を現在の探究へと向かわせる姿勢を育み、セクシャリティや身体性の問題を考察するベクトルもまた必然的に立ち上がりました。

「私 呼吸し さめざめないてみる」という本展のタイトルには、作家の制作と私生活の変化の両方を物語る意味合いがあります。京都府から滋賀県に活動の拠点を移し、リビングとアトリエが隣接する暮らしの中で、日常的に接する人の数が減り、ジェンダーを意識する機会も格段に減ったという現在の環境は、白簱に少なからぬ影響をもたらしたようです。それによって、「呼吸」ができるという開放感の一方で、「さめざめなく」という言葉には、本来私的であるはずの泣く行為に、見られていることを期待する身振りのような側面が感じられ、作家はさらにそこに「(〜して)みる」という補助動詞を付け加えることで、自身を演出する演技的な行為への眼差しを込めています。展示作品には「泣く」という行為に結びつく表情はむしろなく、タイトルと画中の人物の感情表現のズレも含めて鑑賞者の考察を促します。

鏡を用いた表情模倣によって、自身の顔と参照先のイメージを往来する制作過程に加え、移住した頃から「写真」を使い始めた白簱は、複数の表象を一人の身体に重ね合わせる方法も同時期に模索しはじめました。自分ではない誰かになりきること、自分の顔を変容させることに躊躇を持たないと言い切る作家は、表情操作を通じて鑑賞者に描いた像の読解を促す自身の態度を、他者の視線を前提に自分の姿を加工・変容することに抵抗のない「自撮り文化」に特有の操作性の感覚に重ねて解釈しています。

 

表象のシステムが、権力関係と結びつきながら世界の解釈を形づくってきたとするならば、既存の女性像に自身を潜ませ、それを補強・再構築しながら社会へ提示する白簱の試みには、そうした構造の枠組みそのものへと介入していくような態度もまた感じられます。Yutaka Kikutake Galleryにおける白簱花呼の初の個展となる本展では、三人の女性像が並ぶ横長のキャンバス、複数の表象を一人の人物像に重ねた新たなアプローチや、より内臓的な描写に挑んだ「花」のシリーズを含む新作群によって、作家の現在地を展覧します。

 

[1] 古代エジプトなどで、女性が衣をたくし上げ性器を露わにする行為の呼び名。魔除けや豊穣の祈りとも関連づけられる。

[1] 若桑みどり『表象としての女性像 ジェンダー史から見た家父長制における女性表象』筑摩書房、1997年、p8。

 

白籏花呼

2002年大阪府生まれ。現在は滋賀を拠点に活動。古代の呪術的身振り「アナ・スロマイ」(女性が衣をたくし上げ性器を露わにする)を、一方的な眼差しの構造に対抗する行為として再解釈し、顔・身体・花といったモチーフを通じた絵画空間でのイメージの再構築を試みる。セクシャリティや身体性をめぐる問題を軸に、古典美術や現代視覚文化における女性像に自己の容貌を重ね合わせることで、受動的、かつ無害とされてきた存在を、「見られる」ものから「見せつける」主体へと転換する可能性を探る。

近年の主な展覧会に、「Re; Archive」(Mikke Gallery、2025年)、「もっとパッションを」(Yutaka Kikutake Gallery、2025年)、「Skeptically Curious:価値の変成をめぐる複数の試み」(みずほ銀行京都支店、2025年)、「The CAPS – Contemporary Art Practice展」(高島屋大阪店、2025年)、「鬼頭健吾推薦作家展『Floor』」(西武百貨店渋谷支店オルタナティブスペース、東京、2024年)、「Pleiades Edition1」(ギャラリーa、京都、2023年)など。2026年にARTISTS' FAIR KYOTO マイナビ ART AWARD 優秀賞、2025年度京都芸術大学 大学院修了展 大学院賞、2023年度京都芸術大学卒業展優秀賞、第44回国際滝冨士美術賞優秀賞を受賞。

Kako Shirahata「はい……はい?」2026
Oil on canvas, 134 x 100cm