向山喜章

Candle Flame・ 9

Past
2023年4月1日(土)- 5月13日(土)
12:00 - 19:00 日・月・祝 定休

Candle Flame・ 9

 

Yutaka Kikutake Galleryでは、4月1日(土)から5月13日(土)まで、向山喜章の個展「Candle Flame・ 9」を開催します。

 

向山喜章(1968年大阪府生まれ、東京を拠点に活動)は、代名詞ともいえるワックスを用いた作品を経て、近年では繊細な色彩のコントロールが特徴的なキャンバス作品に取り組むなど、表現領域を多彩に展開してきました。京都の元離宮二条城、また神奈川県の浄楽寺など、日本の伝統的な空間建築での作品展示が高い評価を得る一方で、2018年から2019年にかけては、MGMリゾーツ・インターナショナルの招聘により、ラスベガスにて半年間の滞在制作を行うなど、国際的な活動においても知られています。

 

本展「Candle Flame・9」(キャンドルフレーム・キュー)は、Yutaka Kikutake Galleryにおける向山の第七回目の個展であり、彼がこれまでに実現した「月のひかり」、「色彩のひかり」三部作に続く、「祈りのひかり」の三部作の幕開けとなります。本展と同じ題を冠した新作九点のほか、九つの丸いキャンバスがひとつの形象を形作るMoonveeda(2023年)淡い色合いの変化が月光を想起するMaruyulate(2001年)といった新旧の作品群によって構成される展示空間には、次のステージへと向かう作家の世界観が存分に表現されています。

 

石灯籠が立ち並ぶ景色、朝靄に包まれた荘厳な奥の院、祈りを捧げる僧侶の姿 ー 真言密教の伽藍が立ち並ぶ高野山で幼少期を過ごした作家が物心ついた頃から親しんだのが、暗闇を照らすろうそくの光でした。ワックスという素材に惹かれた理由や、光の固定化を目指すようなそれら作品群の成り立ちを、彼の心に刻まれた原風景と切り離して語ることは出来ないでしょう。また、大工だった祖父が朝から仕事に勤しむ姿を見て育った向山にとって、ものを作ることは呼吸することのように自然なことだったと言います。茶道と華道の心得があった母の存在は、彼の日本伝統の文化を探求する姿勢につながっています。金地や銀地を背景に、ワックスの奥から色彩が発光するような印象が際立つのは、九点の連作Candle flame(2023年)です。滲むような淡い光から連想されるのは、闇を照らすろうそくの灯、あるいは朧月の柔らかな光でしょうか。月は向山が以前から引用してきた主題ですが、古くから歌に詠まれ、ひとの営みを静かに見守り、またひとが見上げて安寧を願う対象でもありました。向山は、古今和歌集が生まれた平安時代を日本が最も国際色豊かで華やかだった時代であるとして、本展の重要なテーマのひとつに掲げています。奥に配された華やかな色彩とともに、作品全体が着物や帯を喚起するような典雅な趣向に満ちているのは、向山が混迷を極めるこの現代社会に平安の世を重ね、この三部作の幕開けが明るいものであって欲しいと願っていることの現れでもあります。

 

不透明な世の中を優しく照らす灯明のような心でありたいもの、と向山は語ります。闇の中に光が立つさまは、作家の原体験に深く結びつくビジュアルであるとともに、コロナ禍、戦禍、災禍に揺らぐ世界の人々が等しく希求する象徴的な光景ではないでしょうか。「祈りのひかり」という指針を掲げ、新たな三部作のスタートを切る向山喜章の世界は、明るく希望に満ちています。数字の9に、始まりを意味する英語のCue(キュー)を重ね、発展を遂げた作品群で構成される「Candle Flame・9」をぜひご高覧ください。

 

アーティストについて

 

向山喜章は、1968年大阪府生まれ、現在は東京を拠点に活動している。向山は幼少期を日本有数の密教の伽藍が立ち並ぶ高野山で過ごし、周囲の静謐な環境やそこに存在する仏教美術に触れてきた。その原体験は、向山が初期より一貫してモチーフとして扱ってきた光という根源的な存在態へと繋がっていく。代表作ともいえるワックスを用いた作品では、光に姿を与え固定化するような試みを続けてきた。様々な色相がワックスとともに固定化された作品は不可視の領域を可視化させるようで、美という概念そのものを問いにかけるようで、高い評価を得ている。近年では繊細にコントロールされた色彩を素材として扱い、数十回に渡って塗り重ねられ制作されるキャンバス作品を発表しており、幾様にもその姿を変えながら、歴史、光、人の精神といったキーワードとともにその表現領域を拡大している。2018年から2019年、MGMリゾーツ・インターナショナルからラスベガスへ招聘され半年間の滞在制作をする。

主なパブリックコレクションとして、森美術館(東京)、横浜美術館、軽井沢現代美術館、その他のコーポレートコレクションとして、株式会社大林組、日本サムソン株式会社、株式会社ポンテヴェッキオホッタ、株式会社カザッポアンドアソシエイツ、株式会社キルトプランニングオフィス、MGMリゾーツ インターナショナル、などが挙げられる。

Kisho Mwkaiyama “Candle flame no.7 GOL-O” 2023