アン・ハーディ、松﨑友哉

Tides

Past
2023年5月27日(土)- 7月1日(土)
12:00 - 19:00 日・月・祝 定休 *6月1日(木)は建物の設備点検の影響で停電のため休廊

オープニング・レセプション: 5月27日(土) 18:00 - 20:00

Tides

 

Yutaka Kikutake Galleryでは、英国を拠点として活動する二名の美術家を招聘し、東京での滞在制作、展示、および東京藝術大学での講義を行う一連のプロジェクトを開催いたします。二週間の東京滞在を経て発表される本展では、それぞれが個性際立つ二人の作家が、観点を共有しコミュニケーションを重ねながら制作されたハイブリッドな作品展示が行われます。東京という都市の観察およびその風景についての考察がひとつのキーワードとなることでしょう。異文化間における空間の理解の違い、自然に対する感性など、両者に通じる共通テーマの展開を軸に、国際文化交流の視点も伴ったYutaka Kikutake Galleryにおける初の試みとなります。

 

松﨑友哉(1977年福岡生まれ、現在ロンドン在住)は、ジェスモナイト(Jesmonite)と呼ばれる水性樹脂を用いた支持体に絵画を制作する作家です。石のような風合いを持つ独自のキャンバスには穴が穿たれ、厚みのある平面には抽象的な図柄が描かれています。石板にも似た作品群は、角材と組み合わさって空間を区切り、展示室に独特のリズムを付与するようです。自身の絵画の系譜を、イギリスのコーンウォール地方に点在している穴の空いた岩、また灰色を基調とした抑制された色彩感覚に重ね、彫刻家のバーバラ・ヘップワースや画家のポール・ナッシュなどの20世紀前半に活躍したイギリス人作家とも対照する松﨑は、昨年はじめた野草採集や食事会の開催をきっかけに、以前より抱いていた風景についての考察を推し進め、それらを構成する諸要素、エコシステムや循環に対する興味をより一層深めたと言います。新月(New moon)から満月(Full moon)へと変化を辿る月の満ち欠けが、潮の満ち引きに干渉し、さらに自身の海草採集の成果にも影響を及ぼすといった経験が、The full and newというタイトルの作品の誕生にも由来するなど、環境とそれを取り巻く諸条件への繊細な眼差しはその絵画的実践にも大きな影響を及ぼしています。

 

一方、光や音を組み合わせた大規模なインスタレーション作品をはじめ、その他に彫刻作品やフォトグラムなども手掛けるアン・ハーディ(1970年英国生まれ、現在ロンドン在住)もまた空間の観察および路上での採集を制作プロセスの一貫として位置付けている作家です。用途を失った場所、取り残されたものなどに深い関心を寄せ、それらを「都市に潜在する集団的無意識」に言及する要素として作品に登場させています。彼女の作品はリサーチと採集に基づき、2019年テート・ブリテンのファサードに展示されたコミッション作品においては、付近を流れるテムズ川周辺のフィールドワークを経て、冬至についての古い記録から着想された大規模なインスタレーションが行われました。本展で発表される展示のひとつは、床に置かれたボードの上に、東京で採取された土を用いて形成されたアッサンブラージュ作品です。吊り下がった照明は、東京で観測されるライブ気象データのプログラムによって点滅を繰り返しています。近年ハーディは都市におけるデータを作品に組み込むことに注力していると言います。天候や人の流れなど、目に見えない情報がプログラムされたこの光の点滅は、都市の有り様やその無意識的な側面を可視化し、空間に情感をもたらしています。

 

本展タイトルのTides(潮汐)は二人が制作を通じて共有する感性を象徴的に示す言葉です。松﨑が目の前に現れる風景を環境およびその複合的な要因がもたらす結果であると考えるように、ハーディもまた街を海のようなものだと捉えていると言います。その風景の中では、日々潮が満ち引き、渦が起こり、海岸にはふと打ち捨てられたものが流れつくこともあるのです。東京藝術大学では異文化間での空間に対する視点やアプローチの違いを主な題材に、二名の出展作家とキュレーター三木あき子との対談が予定されています。ロンドンと東京という両都市の狭間を行き来するアーティストの視点を通じて、皆様の考察を促す機会となれば幸いです。