Upcoming
六本木
2026年10月24日(土)- 12月12日(土)
11:00 - 19:00 日・月・祝日休廊
Opening reception
10月24日(土) 17:00〜19:00
*作家が在廊いたします。
* Art Week Tokyo 期間中の 11月4日(水)〜 8日(日)は10:00〜18:00で特別営業をいたします。
「ドローイング」を絵と言葉のあいだに位置づけ、平面・彫刻・映像・パフォーマンスなど、様々な媒体を横断しながら現代における「線」の表現の可能性を探究し続ける鈴木ヒラク(1978年生まれ)。「もう一つの考古学」と呼称する彼の実践は、洞窟壁画のリサーチから、木漏れ日の輪郭を写し取る行為まで、日常に遍在する線の断片を発掘・記録し、身体を介してそれらを再配置するプロセスが生む新たな記号を手がかりに、世界を捉え直す試みです。「海と内臓 / Oceans―Organs」と題された本展では、青と赤という対照的な色彩を背景とするキャンバスに描かれた二つのシリーズによって、作家の現在地を示します。
深海や宇宙を想起させる瞑想的な青を背景に、光を反射するシルバーのインクで描かれた記号が躍る連作《海と記号》(2026年)が、鈴木の実践に新たな展開をもたらしました。2025年からはじまった本シリーズの緻密な世界観は、新作群において、シンプルで抑制的な点と線の表現へと発展を遂げています。土と顔料で設えた濃淡が深い空間的奥行きをもたらす下地に、スプレー、筆、指、ときに木の枝を用いて、未知の記号を掘り起こすように施された光のドローイング。それは、深海の発光プランクトンから、宇宙で生まれる超新星まで、時空間を貫いてさまざまな物語を喚起する力を湛えています。生命やあらゆる文明を生み出した母体であると同時に、海洋汚染や洪水など、常に緊張を孕む「海」を通して、鈴木は、人類の存在以前/以後に存在したかもしれない記号を探り、私たちの紡ぐ文明の起源へと問いを投げかけます。
赤い顔料の鮮やかな対比が印象的な向かい合わせの5点の連作は、作家が2019年より取り組む《Interexcavation》シリーズの新作です。洞窟壁画から着想された赤褐色の背景は、人体内部のイメージにも繋がります。血管や臓器を思わせる画面中心を這うステンシルのネガ(空洞)は、「ネガティブハンド」と呼ばれる古代の壁画技法(手に顔料を吹き付け痕跡を残す)を参照しており、その周囲に配された記号の脈動を際立たせています。「相互に発掘する」という意味を込めた造語「Interexcavation」が示すように、本作では、対象に触れながら、まだ見ぬ線を互いの内側から引き出していく、ドローイングの根源的な力学が立ち現れています。
作家はまた、本展の中核を成すこの二つのシリーズの展開について、かつて東洋の書から着想し記号的絵画を探究したジョアン・ミロや、文字性から離れた自由な線表現を切り拓いた日本の前衛書家・比田井南谷らにも言及しています。鈴木の実践は、それらの系譜を踏まえながら、現代のドローイングの文脈を通して、新たな記号性を帯びた抽象絵画として結実しているのです。
内と外、過去と未来、人間と非人間、マクロとミクロ― 鈴木の生み出す光のラインは、都市から宇宙、深海、内部器官に至るまで、縦横無尽に往来し、異なる時空間や領域を繋ぎあわせる回路のように現れます。太古の人類が月の満ち欠けを動物の骨に刻む行為によって世界に規則性を見出したように、鈴木の実践するドローイングは、万物の内に潜む普遍的な言語を掘り起こすことによって、この混迷の世界を読み解き、再構築するための「線のコスモロジー」ともいえるでしょう。Yutaka Kikutake Galleryでは初の個展となるその実践の成果をぜひご高覧ください。
Hiraku Suzuki
"Ocean and Signs #30", 2026
Silver ink, acrylic, pigment and earth on canvas
91 x 117cm