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六本木
2025年6月5日(木) - 7月12日(土)
12:00 - 19:00 日・月・祝 定休
オープニングレセプション:6月5日(木) 19:30 -20:30
【トークイベント】
松﨑友哉 × 村瀬恭子 (ファシリテーター:兼平彦太郎)
開催日時: 2025年6月5日(木) 18:30 - 19:30
*トークイベント終了後、19:30 - 20:30までレセプションを開催いたします。
場所:Yutaka Kikutake Gallery Roppongi (東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F)
定員:20名 (お申込み先着順)
お申込みはこちらのGoogleフォームよりお願いいたします。
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松﨑友哉(1977年福岡生まれ、ロンドン在住)は、水性アクリル樹脂を用いた支持体に絵画を制作するペインターです。抑制された色彩で描かれた抽象的な図柄と、石のような風合いを帯びた厚みのある画面を特徴とし、絵画と彫刻のあわいを行き来する独自の実践を追求してきました。およそ三十年に及ぶロンドンでの滞在を経る中で、松﨑は外国人居住者としての視点を通じて、自身を取り巻く環境についてのより繊細な意識を持つようになったといいます。本展では松﨑が数年前から実施している野草採取や食のワークショップ、また、ロンドンを流れるテムズ川の干潮時(海と同様水の満ち引きがあり、干潮時の水位は最大で7mほど低い※松﨑友哉「野草を摘む#4」より)にて歴史的遺物を拾い集める”マッドラーキング(泥ひばり)”に伴う風景を巡る考察に根差し、大いに発展を遂げた近年の絵画を発表します。
「Riverbank」(2025年)と題された青を基調とする大画面には、線や丸などの白い図柄が描かれているのが見えます。「桟(さん)」と作家自身が呼ぶ画面から突き出した台のような部分には、身の回りで見つかるファウンドオブジェや、テムズ川河岸のマッドラーキングで発掘したもの - 歴史的遺物ではあるもののロンドンではありふれたクレイパイプなど - が一定の間隔で並んでいます。一般の人々から愛好家までが気軽に携わることの出来るマッドラーキング(現在では遺物の収拾は許可制となっている)では、テムズ川の川べりを歩き、時に何百年も前の過去の遺物が泥の中から顔を出す風景に出くわすといいます。「桟」に並ぶオブジェを、海岸で拾い集めた貝殻を窓辺に置くような仕草にも連ね、ものを拾う行為は自分という存在を通して「場」とつながるジェスチュアであるとする松﨑の考察は、実存的な性質を帯びた絵画的実践としての発展を遂げています。鑑賞者を奥へと引き込み、色や線、形の観察へと導く平面表現と、オブジェの物理的存在感が代弁する物質としての絵画への眼差しを同時に喚起する松﨑の取り組みは、絵画を絵画として成り立たせる諸要素についての思索を促し、あるいは絵画とは何かという自己言及性に満ちた問いかけをも浮かび上がらせます。
食文化に対する探求もまた作家に影響を与えたもうひとつの重要な要素です。イギリスのウェールズ地方と有明海ののりの養殖についての逸話に目を向ける作家は、イギリスと日本の気候風土、あるいは食に対する感性の違いやその歴史的背景への洞察とともに、身の回りで見つかる野草を採取し、食事を作り、抽出した絵具を用いたドローイング制作を含むワークショップの開催をはじめ、エコシステムや循環の意識に根差した活動を続けています。
松﨑は、ロンドンで暮らす一人の日本人としての視点、そして松﨑友哉というペインターの視点を共に編み上げた集大成を形成しつつあります。「Sediment / 沈殿」と題された本展の取り組みに沿って、同時販売される作家のZine「野草を摘む#4」では、テムズ川におけるマッドラーキングを通じて、環境およびそれを取り巻く諸条件へと投げかけられた彼の繊細な眼差しとその思考の過程をより深く共有していただけることでしょう。金沢21世紀美術館「集積する時間:この世界を描くこと」に展示中の作品群とあわせて、その近年の試みと成果をぜひご高覧ください。
Riverbank, 2025, 145 x 176 x 8 cm, Oil on Acrylic resin, Mudlark finds, Aluminium
Photo by Alastair Levy